私が専門とする分野はオペレーションズ・リサーチ（OR）です。社会のあらゆる意思決定の場面で、誰もがより良い結果を求めたいと考えるでしょう。そんな時に役立つのが、数学の理論を用いて“最適解”を導き出すORなのです。考え方は大きく２つ。ひとつは「より良いものを見つける」です。いくつかの材料から最も利益を生み出せる生産計画を立てる、無理なくスムーズな看護師の勤務シフトを組み立てる…といったもの。もうひとつは「選択肢の良し悪しを測る」で、“好き・嫌い”のような客観的な物差しでしか測れない対象でも、納得できる数値として評価を示すことができます。このように複雑な条件が絡み合う事象に対しても最適解を導き出せるORは、問題解決学と呼ばれるほど幅広く生かせる分野なのです。

世の中にはさまざまなデータがあふれていますが、数字だけでは本質は見抜けません。ある年の日本の平均給与は441万円でしたが、この数字を見ると半分の人がその額をもらっているように思いますよね。しかし、実際に441万円に届いていたのは4割以下。これは一部の超高額所得者が平均値を上げていたからであり、“ちょうど真ん中の給与額＝中央値”は約350万円でした。イメージに惑わされず、世の中の本質を見抜ける人材になるには、正しいデータの見方や数理のメカニズムを学ぶことが大切。中でもORは人手不足・資源不足などの問題に直面する今後の社会において、最適な解決法を見つける確かなチカラとなるはずです。幅広い興味と知的好奇心を持って、データサイエンスの世界に挑戦してほしいと思います。

数学にもとづく考え方・手法を物理や情報と絡めることで、アルゴリズムやソフトウェアを動かす。こうした数学から生まれる他分野への応用を“数理的”手法と呼びます。本研究室ではこの数理的手法を用いながら、理工学分野に加え、金融・経済など幅広い領域で役立つ「意思決定・最適化問題」の求解法を研究しています。対象が大域的になれば、最適解候補が多数あるため、その中で望ましい最適解を求めることは困難です。そこで、厳密な解を求めやすい数理計画法と、簡易な方法や多点探索点を用いて近似解を求めるメタヒューリスティック解法を融合させた求解戦略の枠組みを考案。効率的な求解を可能にする数理的手法として、探索点間で共有する情報を用いて最小化すべき目的関数の2次導関数を導き出す多点準ニュートン法も開発しています。

また、本研究室では関西大学との共同研究により、機械学習法を用いた安全な大型インフラ構造物建設を可能にする識別器構成法の開発にも取り組んでいます。このように機械学習や意思決定・最適化問題の求解法は、幅広い分野に役立てられる研究です。データ利用が高度化する今後の社会において、本研究室での経験が大いに生かせるでしょう。もちろん、確かな成果を得るためには数学的な素養に加え、アルゴリズムやプログラムの技術も必要。データの入力や検証など地道な作業も多く、忍耐力も求められます。AIがどれだけ進化しても、必ず人間の判断が求められる場面があるように、高度な技術を生かせるかどうかは人間次第。基礎数学や数理科学などの基盤から知識を大切に積み重ね、あらゆる社会の問題に対峙できる発想力とロジカルな思考力を身につけてください。