Society 5.0を掲げ、デジタル上の仮想空間と現実空間の融合による、新たな未来社会の構築をめざす日本。本研究室でも「使う側」ではなく「創る側」として、サイバー社会の可能性を広げる研究を進めています。私が過去に開発した技術のひとつが投影型マジックハンド。これは手のCGモデルを床や壁にプロジェクションマッピングし、タブレットからの遠隔操作を可能にしたもの。遠くにいる人と握手したり、家電を操作することも可能です。また、フード3Dプリンタを用いて、食べられるデータを食品内部に埋め込むことにも成功。これまでパッケージに記されていた賞味期限やアレルギーなどの大切な情報が、食品そのものから読み取れる世界初の技術です。自らが生み出した技術で新たなサイバー社会を提案する…。そんな研究の面白さをぜひ感じてほしいですね。

もうひとつ、私が取り組む研究分野が情報考古学です。デジタル技術の活用によって、これまでの考古学に深い分析や新たな知見を加えるという試みで、過去には人類最古のピラミッドであるエジプト・サッカラ遺跡の調査にも参加。隊長を務め、貴重な歴史遺産のデジタル保存にも注力してきました。このように本研究室には文系と理系が融合した探究の場があり、得られる知識や経験は社会の幅広い場面で役立つと思っています。技術の発展は今日まで多くの社会問題を解決に導いてきました。しかし環境問題のように、多分野が複雑に絡み合うテーマもまだ残されています。その解決には理工学の専門性だけでなく、文理両面の視点や仲間との協調が不可欠です。日々の研究を通して、さまざまな意見や考えを尊重できるオープンマインドの姿勢も身につけてください。

皆さんは「シンギュラリティ」を知っているでしょうか？日本語にすると“技術的特異点”を表す言葉で、いつか人工知能（AI）が人間を上回り、支配する時代が来る…という考え方です。でも私は心配していません。なぜなら今のAIの主な役割は計算や統計分析。“意思”ではなくあくまで“知能”であり、能力を発揮するには人間による適切な学習が必要だからです。つまりAIを正しく知れば、不安な未来を想像することもないのです。本研究室では“AIを使って世の中の課題を解決する”を目標にしていますが、その入り口はまず「自分が得すること」からでOK。身近な興味からAIを活用し、新たな価値や可能性を見出してほしいと思っています。あらゆるビジネスモデルにAIの活用が欠かせない今後、あなたの経験は社会で幅広く生かせるでしょう。

本研究室で行っている興味深い取り組みのひとつが、動画サイトでアクセス数を上げるサムネイル画像の研究です。人気のあるチャンネルの中から、「画像の類似性の高い猫動画」と「画像のバリエーションが豊富なゲーム動画」を選び、視聴者数とセットでAIに学習させました。その結果、アクセス数を稼げるサムネイルの傾向が判明したのです。注目はサムネイル画像のパターンが豊富なゲーム動画の方が、より予測精度が高かったこと。要因は画像が似通った猫動画に比べ、AIが区別や認識をしやすかったからだと考えられます。このように学習のさせ方ひとつで、AIの活用方法や導き出される結果も大きく変わります。無料のAIツールやデータが身近に利用できるようになった現代において、正しい知識を持っていることはさまざまな可能性を広げてくれるはずです。